(掲載日2009.10.13)
2009年7月から9月まで池袋の東京芸術劇場前に巨大な野外ヒノキ舞台[But-a-I]が出現しました。皆さんはご覧になりましたか? これは「野田秀樹芸術監督就任記念プログラム」の一環で行われるさまざまなアート活動「OPEN THEATRE MUSEUM」のための特設舞台です。
今回、そのアート活動の一つとして8月17日(月)から23日(日)にかけて、立教の卒業生と学生による『いけぶくろの動物園』が上演されました。プロデューサーの武田 力さん(アートパフォーマー・文学部教育学科2005年卒)と立教大学学生代表の河野 晋平さん(経済学部経済政策学科3年次)にお話を伺いました。
【『いけぶくろの動物園』概要】
池袋という街には毎日たくさんの人が行き交います。上京したての田舎娘にロックアーティスト。買い物好きのおばさんにデパートガール。忙しいサラリーマンに募金集めの女の子・・・それぞれが思い思いに動き回る様はまるで「動物園」のようです。
本作品では、ヒノキ舞台を檻に、池袋を歩く人々を動物に見立て大きな動物園を作りました。最初はそれぞれの人物の物語がバラバラに語られます。次第にその人物が生き生きと立体感を持ち始め、すれ違うだけだった人々がつながり、集まり、最後には一つのダンスとなって完結します。
写真左:武田力さん 写真右:河野晋平さん
【武田】:そもそも[But-a-I]のヒノキ舞台は2008年4月、アーティストの日比野克彦さんと、演出家であり東京芸術劇場の芸術監督に就任された野田秀樹さんとで金沢にある金沢21世紀美術館でつくられました。この“ヒノキ舞台で美術と演劇から成る地域アートプロジェクトを立ち上げる”という話を聞き、応募をしたのがきっかけです。金沢近郊に住む人から公募ということでしたから、断られる覚悟でしたが、日比野さんからは「東京から通えるのであれば、参加してもいい」というお返事をいただき、参加することになりました。
その後、僕が初めてアートプロデュースした展覧会『手のひらが横濱』(2009年3月「YOKOHAMA創造界隈コンペ」賞受賞)を日比野さんが観にきてくださり、その際に「今度ヒノキ舞台が金沢から池袋へ来るから、作品をつくらないか」と話をいただきました。それで今回、東京芸術劇場前のヒノキ舞台で『いけぶくろの動物園』を上演することになったのです。
また、その『手のひらが横濱』を手伝ってくれていたのが、今回の学生代表である河野くんであったわけです。
8月22日(土)開場時の入口の様子
【武田】:コンセプトは“アートによる交流から、さまざまな発見へ、そこから新たな発想や活力を生み出すこと。「好きなこと」で「身近なアート」を「地域と」ともに”です。
この企画を考えるにあたっては、せっかく開放的な野外にヒノキ舞台が現れるわけですから、単純に芝居をつくるのではなく、地域の多くの人たちとともにつくり、またその後も発展性のあるようなアートイベントを行いたいと思いました。
池袋は非常に多様で雑多な街で、それこそが他の地域にはない、池袋のポテンシャルだと思うのです。しかし、その多様さがそれぞれ別個に機能しているように感じます。そこで、地域として一つとなって池袋の未来を考え、発展させていくことをアートを媒介として成立できるようなイベントにしたいと考えました。まずは立教大学をベースに置き、そこから地域とつながっていくことを考えました。多くの学生にとってサークル活動などは、自身の「好きなこと」=「趣味」に近いものだと思います。『いけぶくろの動物園』では、例えば、お芝居が好きな人はパフォーマーとして、ファッションが好きな人には衣装を、音楽が好きな人は本番での生演奏を担当してもらうなど、それぞれの「好きなこと」をアーティストの演出のもとに協調、発展させ、一つの作品としてヒノキ舞台に上げたい。その活動を池袋の街に住む方々にも知ってもらい、時には助けてもらうことができたらと思いました。
それぞれの「好きなこと」を取りまとめ、作品として昇華させていく演出家には、公園や美容院などの日々の何気ない空間を、さまざまなアートと絡め新たな角度から見せる、若手ダンスカンパニー「ユトリロユルリト」のたにかわまいこさんにお願いをしました。
アーティストが単に自身の作品をつくり、観客に提示するという従来の一方的なつながりではなく、アートによって参加者に何かしらの発見を与えること。それを普通の学生や子どもたちが開放的な野外ヒノキ舞台で発表を行うことで、親しみやすく、普段敬遠されがちなアートへの理解や興味へとつながり、新しい客層を取り込むきっかけにもなり得ると考えました。
また、池袋近辺の商店街についてもこの企画で交流を持つことにより、チェーン店にはない魅力を参加者や観客に伝えることができればと考え、公演最終日には、池袋西口駅前名店街のギャラリーZOさんにご協力をいただき、参加学生、観客、地域の方々との交流会を行いました。
『いけぶくろの動物園』ダンスシーン
【河野】:僕は本番中、ヒノキ舞台の周りでこの作品の説明と、呼び込みをやっていたのですが、入った人たちが、公演終了後、ニコニコ笑いながら帰っていく姿がとても印象に残っています。僕自身は実行委員として関わり、出演していないのですが、このパフォーマンスを観て喜んでくれた人がいるってことがすごくうれしかった。パフォーマーが舞台上で発したエネルギーが、見に来てくれた人に、地域の人に、何らかの形で残っていくのを感じました。実際に僕は今回の作品を肌で感じて、力をもらいましたから、今回の舞台を一番楽しんだのは自分なんじゃないかな(笑)。
僕たち学生にとってもこのように大学の外で動くことで、より多くの人や物事と出会うというのは貴重な経験だと思います。その時に集まった新しいメンバーと出会い、一つのものを作り上げていく。それが僕たち大学生を成長させてくれるんだと思います。
『手のひらが横濱』
【河野】: 出会いの大切さを知りました。武田さんの企画に関わる人はアーティストだけに留まりません。地域の人々など、普段アートに関係することの無い人たちをも巻き込んでいきます。企画を通していろいろな人たちの背中を見、言葉を聞ききました。それが自分に与えた影響ははかりしれません。そういう機会を与えてくれた武田さんにはとても感謝しています。
【河野】:経済学部の「企画講座D<キャリア形成の基礎>」という授業がとてもためになりました。この授業で、実際にどう考えて行動に移していくのか、具体的な手段、考え方を教わりました。この授業を受けたことで、今までちゅうちょして動けなかった自分も今回のように行動に移し、いろいろなことを経験することができたと思います。
【武田】:役者としても、アートプロデューサーとしても、本当にまだまだなので、メッセージを語れる立場ではありませんが、あえて言わせていただけば、学生のうちはやりたいことはどんどんやったほうが良いと思います。アートを仕事にするに当たって、一番大切なのは技術ではなく、その人自身が何を考え、どのように生きてきたかなので、とにかく学生のうちは一つに絞らず、やりたいことをどんどん見つけ、どんどんやってみること。まずは自分を人間として育てていくことが大切だと思います。
また、立教を卒業した後もアートを側に置いて、いつでもアートに戻れるような関係性を保ってくれたら、と思っています。社会で生きる以上、本能を理性で押さえつけなければならなかったり、ストレスを溜めてしまうこともあると思うのですが、自分が本来持っている本能的な部分を取り戻すためにアートをする。そこから新しい考えやリフレッシュを得て、また日常社会に戻っていける。アートにはそんな役割があると思うのです。そして趣味のアートを元手に主体的かつ多角的に地域と関われるようになってくれたら非常にうれしいですね。
【河野】:立教のキャンドルナイトというイベントを作りあげていきます。次は冬至に行うのですが、訪れた人がゆっくり過ごして、いろいろなことに思いを馳せることができるようなイベントにしたいです。これ以外にも立教の学生にさまざまな出会いを生み出すような仕掛けをつくりたいです。大学内の団体がもっと積極的に情報を交換できたり、大学外の人たちとも出会っていけるような仕掛けをつくれたらうれしいです。
また、個人的には芝居に打ち込みたいです。僕にとって芝居の魅力は、自分の中に入れたもの、積み重ねたものを、ためてためてためてためて出す、その瞬間の面白さ、心地よさです。他に何も使わずに身体一つでそれを表現する、それだけに集中することによって不安定、不確定じゃなくなるその感覚は何とも言えません。武田さんに出会って芝居の面白さを知ってしまったので、今は教えられたことを思いっきり使って、芝居がしたいです。
【武田】:僕は役者として、もっともっと高みを目指したいですね。有名になりたいわけではないのですが、顔ではなくしっかりとした演技を売っていきたいです。
アートプロデュースに関しては、街を歩けば、「あ、ここ面白いな」という街のスキマみたいなところがたくさんあるので、そのスキマにどのように地域や歴史を埋め込めるか追求していきたいです。それを実現するためにお金、つまりアートイベントがどのように経済活動と結びつけられるかが、とても大事です。いま、『いけぶくろの動物園』でご協力をいただいた地域の方から、池袋周辺に広がる空き物件を使って、アートの街に変えることは出来ないかとお話をいただいていています。でもとても僕の力だけでは出来ませんので、興味やアイディアがある方は是非以下のブログにメッセージをください。これからもアートで地域をつなぐ、面白いイベントをつくっていきたいですね。
【今後の予定】
〈武田 力〉以下、すべて出演。
2009/10/9(金)〜10(土) @イタリア・モデナ 10/14(水)〜16(金) @ドイツ・ベルリン
チェルフィッチュ 『ホットペッパー、クーラー、そして別れの挨拶』 http://chelfitsch.net/
2009/11/14(火)〜22(日)
『いけぶくろの動物園』写真展 @新宿眼科画廊
ユカイハンズ キュレーション・グループ展内にて開催予定。http://yukiao.jp/
2009/11/13(月)ー23(月・祝)
フェスティバル/トーキョー09秋
『4.48サイコシス』 作:サラ・ケイン 演出:飴屋法水 @あうるすぽっと
http://festival-tokyo.jp/
〈河野 晋平〉
2009/12/18(金)
立教大学キャンドルナイト @池袋キャンパス内チャペル