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73歳の卒業生に特別表彰!

伊地智 昭亘さん(理学部化学科2006年3月卒業)

(檜枝理学部長より特別表彰を受ける
伊地智さん<写真右>)

本学理学部は、2006年3月に73歳で卒業された伊地智昭亘氏に、「理学部学業顕彰特別賞」を授与しました。3月25日(土)の理学部卒業式にて表彰を行いました。

 伊地智氏は、1952年立教高校を卒業後、同年4月に立教大学理学部化学科に入学しましたが、1956年3月に単位未修得のまま退学。その後、映画会社に就職し、カメラマン、技術課長、スタジオ支配人を経て、

1999年、66歳の時に関連会社役員を定年退職。その後、化学の勉強を続けたいという思いを実現するため、2000年度から2004年度までに立教大学理学部化学科の科目等履修生として19科目40単位を修得、2005年度には卒業研究のため立教大学への再入学を果たしました。大学では化学史の研究に取り組み、卒業論文「宇田川榕菴*著「舎密開宗**」についての考察」を提出しました。
 この研究は、江戸時代に著された原著「舎密開宗」の295章、1100ページのすべてを現代語に訳し、この江戸時代の碩学の著書が複数のノーベル賞受賞者を出すに至った現在の日本の化学の源泉であったことを示すとともに、時代の流れの中で化学の進歩をとらえた優れた研究です。伊地智氏の卒業研究と業績報告会での発表は、同氏の経歴と相まって、学生のみならず教職員にも大きな感動を与えました。
 伊地智氏の存在は、立教大学の若い学生への強い刺激となるだけでなく、同氏と同様の境遇にある人達への激励のメッセージとなるもので、今回の特別賞は同氏を知るすべての者に感銘を与えたこの73歳の卒業生に敬意を表するものです。

*宇田川榕菴:うだがわ ようあん(1798~1846)。江戸後期の蘭医・科学者。
**舎密開宗:セイミかいそう。イギリス人ウィリアム=ヘンリーの著「Element of Experimental Chemistry」のオランダ語訳を宇田川榕菴が翻訳した日本で最初の化学書

卒業式の当日に、伊地智氏に卒業の感想をうかがいました。
再入学にいたるまでの経緯をお聞かせください。

 50年前、父が苦労して立教大学へ入学させてくれたのに、中退して親不孝してしまいました。学歴と関係のない企業で自分の好きな道で働こうと映画の製作会社を選びました。
 会社に入った当時から、中退したことはいつもひっかかっていたのです。高卒でもなければ大卒でもない。学歴社会ではないとはいえ格差はあるわけで、特に職務知識の面で中途半端だと自覚していました。ですから、退職したら大学へ行こうと望んでいたのです。年に見合った文科系の大学の聴講をすすめてくれた友達もいましたが、環境問題に関心がありましたので、やはり育ててくれた立教の理学部で学ぶことを希望しました。
 科目等履修生で勉強しているうちに、50年も前の単位が残されており、不足分をクリアできれば、と堀内先生からも激励され、続ければ卒業できるかなと欲が出てきました。妻や友人は、もし卒業証書をいただけたとしても就職につかうわけでもなく、形よりも勉強するだけでいいではないかと言いました。ですが昔、入学させてくれた父への詫び状という気持ち、化学を勉強したいという気持ち、両方がからんで意志を固めました。

卒業式はいかがでしたか?

(2006年3月25日卒業式<タッカーホールにて>)

 総長先生のお話に感銘を受けました。立教に校是はなく「イエス」か「ノー」の偏った人間はつくらない、人間を型にはめない、自主性を重んじ、判断力を養う校風であること。これは今、日本はおろか世界中に最も必要なことだと実感しました。ともかく念願の卒業証書をいただき感激です。再入学を許可してくださった先生、この1年、研究室でみっちりご指導くださった先生や大学院の先輩、うけいれてくれた同級生には心から感謝しています。今日は、嬉しいような寂しいような、誇らしいような恥ずかしいような、達成したような未完のような、複雑な心境であります。多分、若い人のように、卒業式がこれから新天地にのり出す祝うべきスタートラインではなく、年齢的にはゴールラインと感じたためでしょうか。でも人間なにか目的がないと生きていけませんから、今後も気持ちを立て直してゆっくり自習をするつもりです。

再入学の学生生活はいかがでしたか?

 はじめはマイペースで、とにかく勉強ができればいいという気持ちで、席はいつも教授の声がよくきこえる一番前でした。学生の様子には初めはとまどいました。カンだかいおしゃべり、遅れてきた学生の恥ずかし気のない態度、カタカタ靴音、居眠り、いろいろ気になり、先生も多くの学生も集中がとぎれます。迷惑な行為を自覚せよといいたいのをやっとがまんしたというのが本音です。人を思いやる心を持ってほしいと感じました。それでも勉強したいという気持ちにひっぱられて受講を続けました。研究室の出入りを許可されてから、そんな気持ちは180度変わりました。熱心な研究者の仲間に入ったからです。少数精鋭の研究室は多数の授業とは別世界で快適でした。血圧も安定し、資料集めもはかどりました。ただ、発表用のパワーポイントは何回作り直したことか、いい思い出です(笑)。
 当初、私のような年齢の人が教室にももっといれば、もう少し若い学生と話す勇気が持てたかなと思いました。また、年齢の異なる人のための教室もあるといいなと思います。たとえ年2、3回でもリタイアした人へも門戸を開いてほしいと思います。母校での受講を恋しがっている友人は多いです。

昔の学生とのちがいは?

 昔の学生はスローモードで、じっくり努力型が多かった気がします。服装にはまるで無頓着が多かった。しかし理学部は少数でしたが誇らしげに実験用白衣姿で肩で風を切って校内を活歩していました。今の学生のほうが頭脳の回転と、のみこみが速いと思います。結論を出すのも速い。授業後の小レポートの速いこと。でも授業中の質問に対する答えは大体あいまいで小声です。そんな時昔でしたら先生の罵声かチョークが飛んでくるでしょう(笑)。テレビやパソコンの故でしょうか話し方も速くついていくのに骨がおれます。カリキュラムがとても多くなっています。50年の間に化学が如何に多様化し、進歩したかがわかります。学部も多くなっていて、特徴ある観光学部など、学生が多くの科目から自分にあった授業を選べるようになったのはうらやましいと思います。
 私が過ごしてきた映像製作について考えると、現在、映像にかかわる学科をもつ大学が多くなっていますね。ですが製作の裏方つまり技術本位になりがちでしょう。この4月に立教大学にも映像にかかわる学科ができると聞いていますが、立教独自の科目があってほしいです。例えば技術や機器より、俳優をつくる大学であってほしい。いまの日本ではハードが尊重されますが、まず演技者を育てるのが先決でしょう。映像技術はそれについてまわります。立教はかつて池部良さんのような立派な俳優さんを多く輩出している、いわばその道では伝統校です。他大学に先がけて俳優を育成してほしいですね。

今後の研究についてはいかがですか。

 私には今日の卒業式がゴールです。私は第2の人生などというものはないと思っています。人生はひとつ。そのなかでは自分のしたいことをすればいいと思っています。規律ある自由の学府卒業生として。大学院に進みたいのは山々ですが脳ミソが限界ですから(笑)、自分なりに宇田川榕庵先生(もう呼び捨てにはできません(笑))を研究したいと思っています。なにしろ遺したものは趣味の貨幣の収集からなにから多種多様ですから研究にことかきません。榕菴先生から「学ぶことは真似ぶ(マネブ)にはじまる」ことを教わりました。その上に自分自身の意志を加え、ふくらませていくことだと思っています。これからも不十分だったところを他の資料などから「真似」んでみようかと思っています。

後輩へのメッセージをお願いします。

栗原化学科長より記念品の授与

 やはり本日の総長のおっしゃったことにつきます。人の意見を十分聞く耳をもってほしいです。多少時間がかかっても、両方の意見をよくきいて考えて結論を出してほしい、年寄りの意見も大事、経験上ためになることを知っているんですよ。小言幸兵衛ではありません。
 それから発表する能力を養ってほしいですね。発表するときには「ノー」人間にもわかりやすく説明し、人を説得する能力を身に付けることが大切です。これは今の社会人に欠けていることでもあります。会社には、せっかちでわからずやが多い。負けないできちんとした話で彼らを納得させるテクニックがいります。また社会では自分の仕事だけするのは当たり前、いつも1ランク以上の仕事を勉強することが大事です。同僚と無理に競争しなくても、陰日向なく働けば必ず認めてくれる人がいるものです。
 ある目的や夢がひとつだとそれがはずれた時、がっくりしてしまう。だから夢は多ければ多いほどいい、途中で変わってもかまわないと思います。私なんかころころ変わっています。映画が好きで好きで映画会社に入ったけれど、やはり化学を勉強したいなということで、ひとつ別の夢を実現したわけです。これからどんな夢をみようかな、考えるのも楽しいではありませんか。皆さんいろんな職業に散らばっていかれます。どんなことでもやりがいのあることを見つけるのはすばらしいことです。大企業勤務だけが人生ではありません。

最後に特別表彰を受けてのご感想を

 ほんとうにありがたいと同時に、過分だと思っています。この賞は将来につながるようなりっぱな成績を残した若い人に与えられるべきだと思います。この賞は大きな励みになりますからこれからものこしていただきたいと願っております。
 高齢者にとてもあたたかい大学でした。先生方はほんとうに親身になってくださり、この書面をお借りして厚く御礼申し上げます。感激のあまり、まとまりがつきませんでした。ご容赦ください。

貴重なお話ありがとうございました。本日はどうもありがとうございました。(2006年3月25日立教大学 学院事務棟にて)

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