立教大学 公開講演会 互いに支え合う 第1部 聴こえない弁護士として感じたこと 講師 弁護士 若林亮氏 第2部 若林氏×学生トークセッション サポートを通して感じたこと 日時 2017年11月25日(土)13:30~15:30 会場 新座キャンパス 7号館3階 アカデミックホール 主催 しょうがい学生支援室 後援 立教大学 東京オリンピック・パラリンピックプロジェクト サポート体制 手話通訳、パソコンテイク等 この講演会は、歯科医・受付・誘導・点訳など学生スタッフを中心に運営しました。 藤本(司会)/ 皆様、こんにちは。本日は週末のお忙しい中、足をお運びくださり、ありがとうございます。ただいまより、2017年度立教大学しょうがい学生支援室講演会を開会いたします。今年の講演会は「互いに支え合う~聴こえない弁護士として感じたこと~」ということをテーマとして進めてまいりたいと思います。  本日、司会を務めさせていただきますのは、立教大学文学部文学科英米文学専修1年、藤本昌弘と。 横田(司会)/ 同じく、コミュニティ福祉学部コミュニティ政策学科1年の横田侑樹です。 藤本(司会)/ この2名でお送りいたします。短い時間ではございますが。 藤本・横田(司会)/ どうぞよろしくお願いいたします。 ●写真 マイクを持って話している司会の藤本君(右)と手話通訳者(左)。 藤本(司会)/ さて、開会に先立ちまして、皆様にご理解いただきたいことが2つございますのでお知らせいたします。1つ目です。本講演会では、車いすを使用している方や、視覚しょうがい、聴覚しょうがいのある方々のために、パソコンテイク、手話通訳、移動サポート、音声ガイド、点字のプログラム等をご用意しています。その他、受付なども私たち立教大学の学生が中心となって行っております。至らない点も多いかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。講演会中に何かございましたら、お気軽に近くのスタッフまでお声がけください。  2つ目です。本日の講演会の様子を、記録として写真撮影並びにビデオ撮影させていただきたいと思います。写真に関しましては、本学のホームページやしょうがい学生支援室のFacebook等に掲載する予定でございます。もし何か不都合のある方がいらっしゃいましたら、スタッフまでお申し出ください。また、ご来場の皆様による撮影並びに録音はご遠慮くださるよう、よろしくお願いいたします。  続きまして、本日の流れについてご説明いたします。本日は大まかに2部構成でこの講演会を行ってまいりたいと思います。まず、前半は、若林亮さんによる講演です。 後半は、学生も交えてのトークセッション及び質疑応答のお時間とさせていただきます。詳細につきましては、お手元のパンフレット、プログラムをごらんください。  それでは、内容に移ってまいりたいと思います。まず初めに、立教大学しょうがい学生支援室の菅谷さんよりご挨拶いただきます。菅谷さん、よろしくお願いします。 ■開会の挨拶 菅谷/ 皆さん、こんにちは。立教大学しょうがい学生支援室の菅谷と申します。本日は、土曜日の午後にもかかわらず、たくさんの皆様にお集まりいただき、心から感謝申し上げます。開会にあたり、一言ご挨拶をさせていただきます。講演会を主催するしょうがい学生支援室は、2011年の開設以来、毎年公開講演会を開催しています。今年が7回目になります。今年の講演会は、「互いに支え合う~聴こえない弁護士として感じたこと~」と題して開催します。本日講演をいただく若林亮氏は、生まれつき聴覚しょうがいのある弁護士の方です。講演に続いて後半は、しょうがいのある学生とサポートスタッフの学生を交えてトークセッションを行います。立教大学のしょうがい学生支援には、長い歴史があります。戦前から、視覚しょうがいの学生を受け入れてきました。1990年代半ばに、連携のためのネットワークを正式に立ち上げて、大学全体で支援することを改めて確認しました。また、一昨年には、創立150年を迎える2024年を見据えて、「RIKKYO VISION 2024」を策定しました。その中の大きな柱の1つが、東京オリンピック・パラリンピックプロジェクトの推進です。本学は、特にパラリンピックへのかかわりを重点化しまして、しょうがい者にかかわる事業や体験会などのプログラムを数多く展開しています。本日の講演会もこのプロジェクトの後援をいただいています。本日の講演会が、しょうがいとは何か、お互いに支え合うとはどういうことか、自分が何を始められるか、といったことを考えるきっかけになればと思います。  最後になりますが、本日の講演会では学生スタッフがパソコンテイク、司会、受付、誘導などの運営全般を担っていることをご紹介いたします。この講演会が、運営するスタッフを含め、ここに集う皆さんにとって実り深いものになりますことを祈念いたしまして、開会の挨拶に代えさせていただきます。 ●写真 マイクを持ち開会の挨拶をする菅谷氏 藤本(司会)/ 菅谷さん、ありがとうございました。  さて、続きましていよいよ講演に移らせていただきます。今からお話しいただくのは、若林亮さんという方です。若林さんは現在、弁護士をなさっていますが、先ほど菅谷さんからご紹介があったように、生まれつき聴覚しょうがいをお持ちで、耳で人の話が聞こえず、発声することも苦手だそうです。そんな中で、依頼者の話にしっかりと耳を傾け、適切な打開策を考え、法廷に立つと弁論を駆使して被害者と共に戦うという弁護士という仕事をどうして選択されたのでしょうか。本日は、弁護士というお仕事に就くまでのことや、普段のお仕事の日々、そして、どのような考えを持って弁護士というお仕事をされているのかについて、お話ししていただけると伺っております。このお話を通して、皆様に、しょうがいを持った方々のお仕事の様子を知ると共に、互いに支え合う社会の実現に向けて、皆様に、できることは何なのかについて考えていただければと思います。  それでは、若林さん、よろしくお願いいたします。 ■講演 若林 亮 氏 若林/ 皆さん、こんにちは。私は、若林亮と申します。弁護士として5年目でございます。今日はよろしくお願いいたします。  さて、きょうお話ししたいテーマは大きく分けて5つございます。1つ目は、スライドのとおり、生まれてから今までのお話ということで、生い立ちについて。2つ目は、しょうがいとは何か、というテーマ。3つ目が、弁護士になるまでの活動・苦労したことなど、があります。そして、4つ目は、今の弁護士の活動の内容です。そして最後に、きょうのテーマでもあります「互いに支え合う」ということ。この5つについて、今日はお話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。 ●写真 会場後方より見た会場の全景。来場者の方々を後ろから撮影。会場前方にスライド上映用大画面スクリーンと情報保障(パソコンテイク)の文字を投影するスクリーンがある。 ■生い立ち  まず、生い立ちについてですが、私は1976年生まれです。生まれたときから聞こえません。しかも感音性難聴です。人の話し声が歪んで聞こえるというしょうがいです。ですから、耳で聞くということが生まれつきできません。加えて、両耳とも100デシベルを超えております。100デシベルと言えば、頭上で飛行機が飛んでいる音が聞こえないぐらい重度の聴覚しょうがいです。耳で日本語を聞いて覚えるというのはできませんでしたので、ろう学校というところに私は入りました。昔のろう学校というのは、読み書き、日本語を身につけるということがすべてでした。ですので、手話を使って教育を受けるということは認められていなかった時代です。今は少しずつ時代も変わっておりまして、今のろう学校といえば、手話を使って教えているところも増えてきています。また、文部科学省のほうで通知を出している学習指導要領の中には、手話を使って教育をするという文言が入っております。  では、耳が聞こえない私がどのように日本語を身につけていったかというお話をさせていただきます。まず、発音の訓練ですね。例えば、「あ」と「か」という発音がありますが、違いは当然ありますよね。その違いを、耳の聞こえない私がどのように覚えたか、皆さんわかりますでしょうか。方法としては、ちょっとやってみます。ごらんください。  子どものころ、先生から教わったやり方なんですが、まず、いすに座ります。そして、上を向きます。「あ」という発音を、口を大きく「あ」の形をして開けて発音させられます。そして、先生が、私の口の上に水を含んだスポンジを絞るんです。当然、水がしたたり落ちるので、口の中に水が入りますね。そして、喉のほうに入っていきます。そうしますと、「あ」という発音が、水が入ったことによって喉が閉まり、「か」という発音に変わるんです。それを繰り返し繰り返し先生に指導されて、「あ」と「か」の発音の違いがあることを理解します。そういった方法で発音を学ぶことが一例として挙げられます。  また、読み書きについて、幼稚園のころから読み書きの訓練がありました。毎日、毎日日記を書いたりする方法がありました。そして、日本語が身についていったのかという話なんですが、読み書きについては、何とかできるかもしれませんけれども、発声については難しかったですね。また、人の口を読み取って、話の内容を理解するということも非常に難しかったです。  ところで、コミュニケーションについて一方で考えていただきたいのですが、コミュニケーションといえば、情報のやり取り、また、他者との意思の疎通ということが挙げられると思います。そういった方法として、コミュニケーションはある。また、話を聞く、話す、書く、読む、見る、感じるなどもコミュニケーションの大きなポイントですね。そのコミュニケーションの一部にしょうがいが、耳が聞こえないということであるということになります。  私がコミュニケーションの壁を感じたとことが幾つかありまして、1つ目は、幼稚園に通っていたころです。ろう学校とは別に、聞こえる子どもが通う幼稚園にも毎週1回、通級という形で通っていました。聞こえる子どもたちとコミュニケーションを取れなかったんですね。また、先生の言っていることも読み取れない。そこで1つ壁を感じることがありました。 2つ目は、私が普通制の小学校に転校したときです。そこでもコミュニケーションの壁を感じました。具体的な経験としては、授業の方法です。ろう学校では、子どもの数が非常に少なく、多くて6人とかで、先生が1人ついていますので、6人が先生のほうを見て内容を読み取れますけれども、こういう学生が通う学校は、人数的には40名ぐらいで、今、会場にいらっしゃるぐらいの人数ですよね。ですから、聞こえない私だけのために、先生も講義をしてくれるわけではなくて、内容がわからないということがよくありました。何を言っているかがわからなくて困ったことがよくありました。先生が話をするとき、聞こえる学校では、当然、板書をしながら、黒板に向かって話を続けるということはざらですよね。でも、そうなってしまうと、私は耳が聞こえないので、全く内容が理解できなくなるということも経験しました。  また、授業だけではなく、会話についても壁を感じることがありました。なかなか学生同士で会話についていけないんですね。私の話し方に慣れてくれる学生も2、3人いましたけれども、やはりコミュニケーションを取るのが大変だということも感じられるようで、また、勉強の内容も、講義の内容もわからず、両隣の子のノートを見させてもらって、教科書のページが何ページなのかをそこで把握したり、今、この辺を勉強しているのかなと想像をしながら教科書を読む、とても孤立感を味わう授業を体験してきました。  1994年には、私、大学に入ることができました。そのころからコミュニケーションの壁というものはだいぶ低くなってきました。例えば、手話というものに初めて出会ったのもこのころです。大学に手話サークルというものがあって、そこに入って初めて手話というものに触れました。手話を使えば、聞こえる友達とも会話が差し支えなくできる。飲み会の席でも、孤立感なく対等に笑いながらお酒を楽しむことができる。本当に楽しかった思い出がたくさんあります。今でもよく覚えております。 また、講義の受け方も、以前とは一変しました。それは情報保障の1つ、ノートテイクというものを利用できたからです。そのときに感じたことも、少し話をしていきたいと思います。  私は、高2までは、講義を受けたときに、先生が冗談を言っている、そしてみんながそれに反応する、というときに、私だけ何を言っているのかがわからなくて、なんで笑っているのかさえわからずにいました。でも、聞こえる皆さんが何かウケてるので、私も合わせて笑わなければならないのかなという気持ちになり、作り笑いをするようになっていました。それは本当に寂しいことですけれども、その後大学に入ってからはそういう寂しさは感じず、ノートテイカーの書いた情報には冗談も含まれておりますので、一緒に場を共有することができるということは、とても新鮮だったことを覚えています。1998年ですが、大学を卒業して会社に入りました。読売新聞社です。業務の内容は、校閲の仕事です。最近、テレビドラマでありました、石原さとみさんが主演されていたかな、『校閲ガール』のドラマ、見たことがありますか。まさにあの仕事をしておりました。社内でも当然、職場会議というものがありまして、そのときにもノートテイクをしてくれた同期の社員、仲間や、また、会社の中でもちょっとした協力をしてくれた人がいて、コミュニケーションで困るということは減っておりました。  手話と出会い、ノートテイクという情報保障に出会い、聞こえない仲間が少しずつ増えていきました。仲間とは一緒に旅行に行ったり、活動を共にしたり、日本全国いろいろな集まりがありました。そして、情報交換など、交流を深めて、とても楽しかったことを覚えています。また、聞こえない仲間の存在というのは、ホッとできる場所でもありました。同じ、聞こえない悩みという共通している部分がありましたので、手話を使ってコミュニケーションの壁を感じることなく、話ができて、飲み会の席でも孤立することもなく、ホッと息抜きができる場所となりました。 ●写真 スクリーンの前に立ち、講演している若林氏。 ■しょうがいとは何か  では、続いて、しょうがいとは何かについて話をしていきたいと思います。テーマ、しょうがいとは何かということですが、考え方を大きく2つに分けて話をしたいと思います。1つは、医学モデル、もう1つは、社会モデルという観点です。 聴覚しょうがいの例で、切り口で話をしていきますが、医学モデルからの見解ですけれども、医学モデルから見ると、聴覚しょうがいは、聞こえない、イコール、それがしょうがいとなっています。そして、克服方法としては「リハビリを行う」とか、そういった言葉が出てきますね。また、「更生させる」というような、「更生」という言葉も発想としては上がってきます。しょうがいは個人本人の問題ですから、個人が努力をして解決させていくという観点のモデルです。しょうがいを克服させるのは、本人と親の努力に委ねられてしまうという見方ですね。この考え方につながっていく見方だと思います。その観点からのリハビリについては、幾つかアプローチがありますが、例えば、補聴器を使う。そして、聞こえる人と同じように読み書きができるように日本語を習得する。そして、口の動きを読んで内容を理解する。それがうまくいってコミュニケーションの壁がなくなればいいですが、そこで落とし穴がありまして、100%同じように聞こえる人と対等になるわけではない方も当然いますね。私のように。その場合には、社会生活の中で不便がどうしても残ってしまいます。  次に、聴覚しょうがいを社会的なモデルとして理解する場合についてお話しします。聞こえないということは、これはしょうがいではないと考えます。聞こえないということで、結果として社会生活の中で不便や困難に直面する。これがしょうがいなのだという考え方です。聴覚しょうがいの場合は、コミュニケーションの壁というものがあります。それがしょうがいだと考えるわけです。例えば、電車が止まってしまったとき、聞こえない立場の私はどうして止まっているのか、知ることができません。放送もわかりませんので、電車を乗り換えなければならないとか、そうした判断をすることもできないわけです。社会生活の中で不便があるということ。これがしょうがいになります。  この社会モデルという考え方では、しょうがいは個人の問題としては考えません。社会生活の中でしょうがいが起きるというのは、社会にも問題があるんだ、社会にも責任があるんだという考え方につながるわけです。ですから、社会が本人と一緒にこのしょうがいを乗り越えていくという考え方につながっていくわけです。それが、この一緒に生きる、互いに支え合うという考え方にもつながっていきます。障害者差別解消法の中に「合理的配慮」という言葉が出てきますが、こうした考え方にもつながっていきます。 ●写真 壇上の若林氏と話を聞いている来場者の方々。 ■弁護士になるまで  次に、弁護士になるまでの話に移りたいと思います。  実は私は以前から弁護士になりたいという思いを持っていました。私の先輩に田門浩という弁護士がいらっしゃるんですけれども、田門先生も同じくろうの弁護士です。私も田門弁護士のようになりたいと思って、大学生のときに司法試験を受けたこともありました。けれども、そのころはとても難しくて、不合格になってしまいました。その後、会社に入るという道を選びました。弁護士になるという夢を私は一度あきらめたわけです。けれども、会社の中で仕事をしていく中で、新聞社の中で、田門先生のいろいろな弁護士の話が出てくる。それを読んでいると、やはり私も弁護士になりたいという思いがまた強くなってきました。  ところが、このころは司法試験の仕組みが変わっていく時代でもありました。以前は、誰でも何回でも司法試験にチャレンジすることができたんですけれども、今は法科大学院を卒業するという道、あるいは、別の試験に合格しなければならないという、この二択しかない形になってしまいました。そのいずれかを通らないと、司法試験を受けることができないわけです。そこで会社をやめるか、法科大学院に行くかということをすごく悩んで、私は法科大学院に入ることにしました。  実は法科大学院に入るというのは、簡単なことではありませんでした。大学院の講義は、これは今日の私のようにずっと一方的にお話をするという形ではないんです。先生が学生に質問を投げかけて、みんながいろいろな答えを出しながら議論をしていく。みんなで1つの答えを出していく。それに対してまた先生が問いを投げかけるというようなやり取りのある授業でした。みんなで考えながら、一緒に正しい答えを見つけていくという授業の流れですので、コミュニケーションがすべてなんです。私の場合は、最低でもノートテイクがなければ、講義を受けることはできないという状態でした。そこで、いろいろな大学に、私はノートテイクが必要なんだということを伝えた上で、受験が可能かと問い合わせたところ、答えがない大学もありましたし、試験を断られた大学もあります。しかし、幸いなことに、入学できる大学が見つかりました。2008年に、私は上智大学の法科大学院に入学することが出来ました。  上智大学は、もともとノートテイクのシステムというのはない大学でした。けれど、私が入学するということで、副学長が私と会ってくださって、何が必要なのかというニーズを聞いてくださいました。ノートテイクという方法があるということをお伝えすると、副学長は、「なるほど、わかりました。学内でノートテイカーを集めましょう。」と言ってくださいました。その結果、100人以上の学生から応募があったと聞いています。  ノートテイクをしてくれる学生に対する謝金というものも副学長がポケットマネーを使って払ってくださったらしいです。そのように聞いています。  そして、2008年に入学して、2011年に卒業いたしました。結局、3年間学んだわけです。すべての講義にノートテイクがつきました。また、クラスの仲間もいろいろなサポートをしてくれました。例えば、50人のクラスだったんですが、毎回、講義のときには担当を決めて、2人が私にノートをコピーさせてくれました。このようなシステムも考えてくれたわけです。また、司法試験の問題を一緒に解いて議論をするという学びがあったんですけれども、こうした個人ゼミにも私は誘っていただくことができました。そして、どのようなことができるかを一緒に考えてくれました。みんなで一緒に、パソコンを持ち込んでチャットを通して話し合うということをしました。これはチャットだけでやったんです。聞こえる学生も声を使わない。笑い声以外は声を使っていけないというルールをつくってくれて、チャットだけで話し合いをしました。このような形で、私もやっと卒業することができたわけです。そして、その年に司法試験にも合格することができました。  2011年11月からは、司法修習が始まりました。その間もノートテイクのサポートを受けることができました。また、同期のみんなも、担当を分担してノートテイクをやってくれました。また、手話ができる同期もいたので、その同期が手話通訳をやってくれたりもしました。そして、2012年の12月に司法修習を無事に終了して、やっと弁護士として登録することができました。ここまで本当にたくさんの人たちに支えられた、私一人の力ではここまで来ることはできなかった、と本当に思っています。 ●写真 講演内容をを情報保障(パソコンテイク)している学生たち。  ■現在の仕事内容  次に、弁護士としてどのような仕事をしているのか、今の仕事についてお話ししたいと思います。仕事には、民事事件、刑事事件など、さまざまな事案があります。聞こえる弁護士とやることは全く同じ内容です。対等に仕事をしています。民事事件の場合、また刑事事件の場合、この2点について今日はお話ししたいと思います。  事件のスタートというのは、まず、人と会うということから始まります。民事の場合は司法相談、そして、刑事の場合には警察署に行って接見をするという形で、会うところからスタートをします。いずれにせよ、民事も刑事も何が起きたのか、どんな悩みがあったのか、本人が求めているのはどういうことなのか、それを聴き取るということがとても大切です。聴き取った上で、法的に手続をどのようにするのかとか、そうしたことを話していくわけです。依頼者は、本当にさまざまです。一人一人の人生というのは、分厚い本で書いても足りないぐらいの厚みがあります。お一人お一人は、また気持ちもさまざまです。生まれてから今までの背景も本当にさまざまです。依頼者以外にも、いろいろな人とお会いしなければならない場合もあります。  法律相談の場合は、必要な聴き取りをして必要な回答をするという時間は、なんと、30分間でやらなければなりません。依頼者もさまざまですし、内容もまちまちですので、30分で聴き取って回答するというのは、本当に大変なことです。まさにコミュニケーションが大切になります。このようなとき、筆談ではとても間に合いません。私の場合は、手話が必要になります。ほかにもいろいろな方法があるかもしれませんが、例えば、UDトークとか、ロジャーという補聴器の進んだようなものがあるのですけれども、私も使ったことがないのでわからないのですが、いろいろな方法があることはあります。ただ、私の場合は、手話がどうしても必要だというふうに考えています。法律事務所に入ってから今まで丸々5年になりますが、手話通訳士と一緒に仕事をやってきました。法律相談も手話通訳士と一緒に受けています。  法律相談をするときには、手話通訳者には相談者の隣に座ってもらうようにしています。というのも、私も相談者の顔を通訳者と同時に見るというのは大切だと考えています。表情を読み取り、気持ちを理解するためには顔を見ることが大切だからです。もし、私が相談者を見ないで、手話通訳者だけを見ながら話していたら、どうでしょうか。たぶん依頼者は、きちんと話を聞いてもらっているのかなという疑問の気持ちが浮かんでくると思うんです。ですので、相談者の隣にきちんと座ってもらうようにしています。  私の通訳者が相談室に入ってくるときには、依頼者の中にはびっくりする人もいます。けれども、少しずつ話を進めていく中で、信頼してくださるようになります。若林さんという人は、手話通訳と一緒に仕事をする人なんだと。手話があれば、コミュニケーションの問題はないんだ、壁はないんだということを理解してもらうことができるからです。  今まで聞こえないからという理由で依頼を断られたことは一度もありません。  また、堂々としているということも大切だと思います。私は、依頼者に対して前もって、私は聴覚しょうがいがあるんですけれども、相談を受けてもいいですか、なんていうことは聞きません。初めから堂々として、手話通訳と2人で接見して、信頼関係をつないでいくことができるようにしています。  今日は時間がないので、エピソードと書いているところは、省きたいと思います。もし時間が残れば、後でお話しします。  事件を受けて、私が受任した後、最後まで 戦うことになったとき、そのときには依頼者と何回も何回も打ち合わせをすることになります。そして、裁判所に書面を出すために必要なことも追加で聴き取りをしていきます。情報も集めていきます。交渉もしていくなどいろいろな仕事があります。それもすべて手話通訳士と二人で一緒にやっています。  離れた人ともコミュニケーションをとらなければならないときがありますが、そういうときには、メールやファックスを使います。また、手紙も使います。誰かに伝言をお願いする場合もありますし、どうしても電話が必要になるときもあります。私は弁護士になるまでは、電話をしたことはありませんでした。けれど、弁護士になった後は、電話が毎日必要になりました。私が電話する方法ですが、ここに電話機があると思ってください。私はこの前に座りますね。それで、通訳士が電話機の反対側にいます。向かい合うような形でいます。そして、通訳士がヘッドセットを付けます。私が手話で表したものを通訳士が読み取って日本語に変えて、電話の向こうの相手側に伝えます。そして、相手側の答えは、通訳士が私に手話で表現して伝えてくれるという方法になります。  電話のときに大切なことですが、相手方の感情というものは、私には見えないですね。笑っているのか、泣いているのかさえわかりません。怒っているのかもわかりません。もし、私が、相手が泣きながら話しているときに、普通に話を進めてしまったらどうでしょうか。相手は怒るかもしれませんね。コミュニケーションがうまくいかなくなってしまいます。相手の気持ちというものを理解した上でコミュニケーションをとるということがとても大切です。  でも、私には見えないですよね。相手の表情は見えないわけです。そのときには、どうやって電話をしていると思われますか。これは、通訳士が自分で表情を表してくれるわけです。電話の向こうの相手が泣いているときには、通訳士は悲しそうな表情をしてくれます。笑っているときには、通訳士は笑う表情を表す、怒っているときには怒りの表情を表すという形で、私に相手の気持ちが伝わるように、コミュニケーションがとれるようにしています。  電話のエピソードとして、うれしかったことが1つあります。私は会ったことがない人と会う場合、まず、電話で問い合わせをしてやり取りをして、その後で実際に会うというときがあります。そのときに、相手の方が私を見て驚かれるんです。「若林さんは、聞こえる女性の弁護士さんだと思っていました」と言われるわけです。それを聞くと、私も通訳士もとてもうれしくなりました。電話が普通にできているということ、不自然ではなかったということですよね。その証だと思っているからです。  さて、法廷の活動について、手話通訳士が一緒に赴くこともよくあるんですが、法廷では、やはり緊張する場面ですので、裁判官やその場その場で高度なコミュニケーションが要求される場でもあります。その場で急遽電話が必要になる場合ももちろんありますし、裁判官の許可を得られれば、その場で依頼者に電話をかけ、和解案を提示したり、交渉を進めていくというようなこともリアルタイムで起こってきます。尋問のときにもそうです。短い時間の中でたくさんのことを聞かなければならないので。前に経験した尋問のエピソードなんですが、1人当たり30分という時間で、私が聞きたいこと、また話したいこと、話してほしいことを羅列すると100以上になることがあるんですね。それも筆談でやっていると時間が足りませんから、手話通訳士を同席させて尋問をしたりしています。 ■互いに支え合う  続いて、最後のテーマになります。互いに支え合うというテーマです。このテーマについて、2つキーワードがあるなと思っていますので、お話をします。1つ目は信頼関係です。2つ目は相互理解という言葉です。    1つ目の信頼関係についてお話をします。私はいつも手話通訳士とペアで業務を行っています。法律相談から始まり、接見や打ち合わせなど、また、場所も法律事務所に限らず、裁判所や区役所、警察署、拘置所もあります。また、依頼者宅に赴いたり、病院で話をすることもあります。また、現場やほかの弁護士事務所で打ち合わせということもあります。場所もさまざまです。そんなところへ、いつもいつもペアで手話通訳士と活動をしています。  当然、二人で仕事をしていく中で、ペアとの信頼関係は非常に大切です。民事事件、刑事事件かかわらず、複雑な事件ばかりなので。しかも、私たちの業務の結果が依頼者の人生に大きく影響するわけです。たくさんの人と会うことが必要になることもあります。いろいろなところに一緒に同行して北海道の札幌のほうに行ったこともありますし、函館に行ったこともあります。高松での仕事もありました。いろいろな場所で仕事をしています。こういった仕事を、今まで会ったこともない二人がペアになって、その依頼者と一緒に業務を行っていかなければならないので、もし、ペアの通訳士とうまが合わなければ、価値観も人生観も当然違うわけではありますけれども、その二人が一緒に円滑に業務を行うためには、呼吸が合わなければいけないのですが、そういった保証がないときもあるわけですね。もし私と通訳士の関係がよくなかったら、皆さんどうでしょうか、依頼者だとしたら。当然、うまも合わずに、お互いの意見交換もせずに、事件についても、一緒に深めようという話もしないわけですね。そうすると、ストレスがたまるわけです。その結果困るのは、私たちではないですよね。頼んできた依頼者の方が困るわけです。  信頼関係を築くに当たって、通訳士とお互いに大事にしていることがあります。どちらが上、下ということではないということです。本当に対等の関係なんですね。また、助けてもらうという関係だけではないんです。また通訳士が助けてあげる立場でもないんですね。お互いに自分の仕事として取り組んでいくという立場なんです。ですから、意見もはっきりぶつけ合うということもあります。また、わからないことがあれば、はっきりさせるとか、けんかもいっぱいしてます。一方で、できるだけ距離を、時には距離を置くということもありますね。いつもいつもベッタリというわけではなく、適切な距離を置いて関わることも当然必要です。仕事ばかりではなく、仕事以外の話をしたりということも大事になります。お互いにうまくいったとき、また、失敗したときも、お互いにそれを認め合って、もし失敗であれば理由を確認し、ここを改善すればよかったという話を、腹を割ってするということです。  通訳士との関係、信頼関係がうまくいく場合にはどうなるかといいますと、通訳がかみ合うということですから、お互いにいつでも思ったことを話し合える。一緒に目の前の事案について取り組む意欲がわきます。そうすると、お互いに業務が当然、楽しくなるわけですから、そうすると、誰が喜ぶかというと、私たちではないですよね。一番喜んでいただけるのは、依頼者の方たちということになります。いい仕事につながるという上では、信頼関係は非常に大事だと思います。  2つ目のキーワードとして、相互理解を挙げさせていただきました。その前に、聴覚しょうがいがある人の場合、コミュニケーションの壁があるというお話をしましたが、この壁がなくなると、聴覚しょうがいを持っている人が、本当に持っている力を発揮できます。そして、社会で活躍できます。そういう意味では、しょうがいが取り除かれるということにも言及できます。しょうがいをなくす、イコール、コミュニケーションの壁をなくすということは、手話だけではありません。たくさんの方法があります。筆談もそうですし、要約筆記、ノートテイクですね。また、遠隔通訳、テレビ電話を使った通訳も出てきておりますし、電話リレーサービスというサービスもあります。先ほど申し上げましたUDトーク、ほかの方法も含めて、今後進めていく、進化していく必要があると思います。  ここで、相互理解を深めるに当たっては、聴覚しょうがいというのはわかりにくいしょうがいなんです。目には見えないしょうがいと言われることもよくあります。どういうことかといいますと、聞こえる皆さんは聴覚しょうがいの内容をなかなか深く理解することはできないですよね。理解の仕方もまちまちですし、コミュニケーションの壁の状況や、その壁を取り除く方法が、聴覚しょうがいの人によってまちまちですから。ですから、自分から相手に対して自分のしょうがいの特性を理解し、説明するということが非常に大事になります。どのように聞こえる皆さんに自分のこと、聞こえないしょうがいを伝えられるか。そして、どういう方法があれば、そのコミュニケーションの壁が取り除けるかというところまで、きちっと自分自身を理解し、説明していくというのが非常に大事になってきます。  互いに支え合うために必要と思うことにつきましては、この2つですね。信頼関係と相互理解を今回は挙げさせていただきました。そして、互いに支え合うことでよい結果をもたらし合う。お互いがWin-Winの関係になるということです。それが非常に理想の関係かなと思っております。  お話はこのあたりで、以上とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。 藤本(司会)/ 若林さん、ありがとうございました。以上で前半の部を終了いたします。  続きまして、後半の部に移るまでの間、映像をごらんいただきたいと思います。現代心理学部映像身体学科2年の石田智哉さんが制作いたしました「サポートがつくる人と人とのつながり」という映像です。この映像には字幕がついており、映像の音声ガイドをいたします。なお、講演会開始前にサブスクリーンで上映しておりました講演会メイキング映像も石田さんの製作によるものです。それでは、映像をお願いします。 ■映像「サポートがつくる人と人とのつながり」(DVD上映) 三原(ナレーション)/ しょうがい学生支援室紹介映像「サポートがつくる人と人とのつながり」。  しょうがい学生支援室では、しょうがいを持った学生が大学において活動を行うためのサポートを行っています。池袋・新座両キャンパスにあります。支援室の中には、交流を深められるラウンジと呼ばれるスペースがあります。新座キャンパスには7号館、この建物の2階にあります。中央にいすとテーブルがあり、その奥には職員のデスクがあります。  こちらが、ラウンジと呼んでいる交流スペースです。中にはサポートを利用している学生、担当する学生、職員スタッフの写真があります。  しょうがい学生支援室では、主に5つのサポートを学生スタッフが担当しています。それぞれ順に説明していきます。  1つ目に、移動サポートについてです。移動サポートとは、教室間の移動や荷物の出し入れなどを行うサポートです。サポートを利用する学生と担当する学生で待ち合わせ場所や教室での受講位置などを相談しながら行います。 渡り廊下で男性が車いすの女性を押している様子です。 支援室前で、男性が電動車いすの男性を押している様子です。 連続で授業を取っている場合は、授業教室間の移動を行います。教室に到着後、授業を受ける場所まで移動サポートをします。授業に必要な道具の準備も行います。車いすの向きを、壁と垂直に向けている様子です。 2つ目に、ポイントテイクについてです。ポイントテイクとは、授業に同席してノートを作成するサポートです。サポートを利用している学生と担当している学生が、お互いに要望を伝えてノートをつくります。同じ授業を受けることで、コミュニケーションが深まります。サポートを利用している学生の隣にサポートを担当している学生が座り、ノートを作成している様子です。サポートを担当している学生も一緒に授業を受講することができ、新たなことを知れるのも魅力の1つです。 3つ目に、ノートテイクとパソコンテイクについてです。ノートテイク、パソコンテイクとは、講義内容やその場で起こっていることをノート、またはパソコンに打ち込んで伝えるサポートです。講義担当者の話やその場の雰囲気、笑い声などを文字化します。二人ひと組で連携して情報を入力していきます。しょうがい学生支援室に集まって練習をしている様子です。パソコンに入力する二人の女性と、中央に講義映像が流れているパソコン。映像が流れるパソコンの横には、二人の入力した文字が映っています。映像に合わせて、お互いにどのようなルールで打っていくかを相談しながら作り上げていきます。実際の講義での様子です。 4つ目に、音声ガイドについてです。音声ガイドとは、授業に同席して、板書の読み上げ、視覚教材、パワーポイント資料や映像の説明などを行うサポートです。視覚情報を、言葉を通して補います。配付されたプリントに書かれている内容を説明します。特に画像や表などについては、どのような内容か、詳細に説明します。男性が、サポートを利用している女性にプリントを示している様子です。 このほかにも、しょうがい学生支援室では、さまざまな活動を行っています。ここでは、サポートスタッフミーティングと、バリアフリー講座を紹介します。 サポートスタッフミーティングとは、学期末にサポートを利用する学生と担当する学生、職員が集まって行うミーティングです。サポートごとに工夫点や改善点を話していき、情報を共有します。 こちらは、池袋キャンパスでのミーティング風景です。学生がコの字型に座り、テーブルの上には書類とお弁当が置かれています。一人一人、学期の振り返りを話しています。 新座キャンパスでも行われます。サポートにかかわった学生が集まっています。コの字型に2列につくられた座席で、前面にスタッフが座って、概要を説明しています。 今学期のサポートについて、サポートを利用している学生が話しています。サポートを担当していた学生も、今学期、サポートを行っての気づきを話しています。 ミーティング中はパソコンテイクも行われています。前面のスクリーンには、プロジェクターを通してパソコンテイクの画面が映されています。 続いて、バリアフリー講座について紹介します。 バリアフリー講座とは、聴覚、視覚、肢体不自由、発達と、さまざまなしょうがいについて、専門家を招いて行われる講座です。専門家の方によるお話に加え、自分たちが実際に体験することを通して、より理解を深めるプログラムが行われています。こちらは、聴覚しょうがいについてのバリアフリー講座の様子です。講師の方が講義を行っています。スクリーンには、ろう者の区分けが載っています。グループごとに分かれて、実際に手話を練習している様子です。参加者は2グループに分かれ、円形に座っています。 続いて、視覚しょうがいについてのバリアフリー講座の様子です。参加者がペアになり、片方が白杖を持ってアイマスクを付けています。実際に階段を上る体験を行っています。アイマスクと白杖を身につけた女性と、横に付き添う男性の様子です。 最後に、発達しょうがいについてのバリアフリー講座の様子です。まず、講師から、発達しょうがいとは何かという説明を受けています。スクリーンには、学習しょうがいについてのスライドが映っています。 当事者の方とのパネルディスカッションの様子です。自身の経験をお話しいただいています。 参加者からの質問を受け付けている様子です。たくさんの人々が受講しています。 授業でのサポートを通して、学年を超えた交流ができる支援室。このことも魅力だと思います。ある日のお昼休みには、たくさんの学生が集まり、とてもにぎやかです。 以上で紹介映像を終わります。ありがとうございました。 ●写真 マイクを持ち司会をする横田君(車いす使用)。 ■第2部トークセッション 横田(司会)/ 支援室の様子がわかる素敵な映像でしたね。石田さん、ありがとうございました。  では、次に、トークセッションの時間に移りたいと思います。第2部は、実際、支援室でサポートを利用している学生、また、サポートを担当している学生に登壇いただき、若林さんとお話をしていただきたいと思います。トークセッションの最後には、会場の皆様からの質問をお受けしたいと思います。その質疑応答の際のお願いをお伝えします。発言される前に、所属、学生の方は大学名、学部、学年、お名前をお願いします。スムーズな情報保証のために、ゆっくりはっきりと発言されるよう、お願いいたします。 また、手話で質問をされる方は、手を挙げていただけると幸いです。それ以外の方は、席にてマイクをお持ちします。立ってご発言される方は、席のところでお待ちください。ご協力をお願いします。    ここで、パネリストを紹介させていただきます。向かって右から、若林さんです。続いて、立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科の大石鮎美さんです。続いて、立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科4年の長谷部里奈さん。続いて、立教大学現代心理学部映像身体学科2年の石田智哉さんです。  ここからの進行は、若林さんにお願いしたいと思います。それでは、よろしくお願いいたします。 ■講演の感想 若林/ よろしくお願いいたします。では、始めてよろしいでしょうか。皆さんよろしくお願いします。  皆さんのご紹介は終わったということでよろしいですね。では私の話、たくさん致しましたが、聞いていただいて思ったこと等ありましたら、そこを教えていただきたいと思います。また、サポートをなさっている方、いらっしゃいますね。そのときに感じていることなどを教えてください。また、サポートを受ける立場のお二人もいらっしゃるので、サポートを受ける立場で感じていることなどを一人一お話しいただければと思います。まずは大石さんからお願いします。 大石/ 若林さんのお話を聞いて、弁護士の仕事と言えば、コミュニケーションがとても大切なんだ、対人の仕事なんだなということを感じました。また、若林さんが、子どものときに、友達とのコミュニケーションの壁があったというのをおっしゃっていたので、コミュニケーションに苦しんでこられたという流れをお聞きしました。それでも対人の仕事、人と接する仕事を選ばれたという様子を見て、弁護士という仕事に対する強い思いというものが伝わってきました。  また、仕事の大切なパートナーと信頼関係を持っているということ。そうしたことがとても大切なんだということを感じました。  また、聴覚しょうがいについても、自分は堂々としていることが大切なんだという言葉を聞いてとても勉強になりました。ありがとうございました。  サポートを受ける立場ということなんですけれども、それで感じたことですよね。 若林/ そうですね。受けているときに思っていることなどを教えてください。 大石/ サポート、今、大学の中で授業のサポートを受けているんですけれども、そのときに感じているのは、サポートをしてくださる学生との関係というのをいいものにしたい、いい関係にしたいという気持ちがあります。パソコンテイクを使っているんですけれども、そのときにも、テイクに入ってくれる人たちと仲よくなりたいという気持ちがあります。そういう気持ちを持ちながら、サポートを受けています。 若林/ 次に、長谷部さん、お願いします。 長谷部/ まず、お話を聞いた感想から伝えさせていただきます。お話の中で、手話通訳士さんと共にお仕事をされていると聞いて、それでもあくまで弁護士さんは若林さんで、依頼者の方のお話を聞くのは若林さんというところを聞いて、すごく感銘を受けました。なので、電話をするときもご自分が会話をするというところとか、相談を受けるときも、ご自分と依頼者の方が会話するというのを心がけているというのを聞いて、私もサポーターとして、例えば、大石さんのサポートに入るときに、自分が授業を受けているのではなくて、彼女が受けているんだというのを改めて気づかされました。例えばディスカッションの授業があったときも、ほかの学生が私に対して話しかけるのではなくて、やっぱり彼女に話をしてほしいし、私がその授業で話すんじゃなくて、彼女に授業に参加してもらいたい。それが、どのようにできたら一番いいのかというのを、もっと考えていきたいなと思いました。ありがとうございます。 若林/ サポートした経験を通して思ったこととかあれば、教えてください。 長谷部/ はい。私は、サポートを幾つかやっていまして、一番多いのはパソコンテイク、あとは音声ガイドと、ノートテイク。ほとんどやっていないんですけど、ポイントテイクとか、移動サポートをやらせていただいています。  そこで幾つか苦労をするというか、悩みながらやっていることがあります。それは、これでいいのかというのをいつも思いながらやっています。例えば、自分の能力では打ちきれない文章、打ち終わらない文章、パソコンで打ち終わらないときに、伝えきれたかなと不安になったり、流れてくる映像を音声ガイドとして言葉で表現するときに、ふさわしい表現なのか、学生がわかってくれているかというのが常にわからないので、これでいいのかなというのはいつも悩みながらやらせてもらっています。  逆に、サポートを通して学んだことなんですけど、学んだことというか、やってよかったことを言います。まず、パソコンを打つのが速くなりました。これはほかでもすごく活きているんですけど、速く打てるようになったなというのと、あとは、音声ガイドで映像を、視覚的な情報を言葉にするというのは、別にそのサポートのときだけに重要なことじゃなくて、ほかのいろいろな場面でも使えるというか、勉強になったなと思っています。  全体を通して一番言えるのは、悩みながらも、サポーターのほかのスタッフと相談して、よりよいものをつくっていくという努力をすることで、どんどん、どんどんいいサポートができる実感があることです。さっき若林さんのお話にもあったように、しょうがいを持った方本人の努力じゃなくて、社会のほうが工夫していくことで壁はなくせるというお話があったと思うんですけど、それをすごく実感しています。私たちがどれだけ工夫するかということによって、壁がなくなっていくんだなというのに、2年、3年やっていて気づいたなと思います。 若林/ ありがとうございます。次に、石田さん、よろしくお願いします。 石田/ 若林さんの話を聞いての感想として、お互いにペアとなって仕事をする、通訳士さん、弁護士さんで仕事をするという話を聞いて、時には対等だったり、時には少し距離を置いたりして関係を築いているんだなということを知れて、とても勉強になりました。  僕は、映像制作に興味があってこの学科に進んだんですけど、制作などを行うときに自分でできないことをやってもらう、自分の手や体の代りになってやってもらうというのが、これからどうしても必要になっていくので、このようなお互いに思ったことをぶつけ合って、よいものを創り上げることのできる関係性を自分自身も築いていけたらなと改めて感じました。  そして、コミュニケーションについての話を聞く中で、自分自身も普段、介助やサポートを受けている中で、人との関係性に気を配ることを行っているので、上下関係とかにならず、対等に向き合っていけたらなと感じました。  サポートを受けての思いですが、僕は、授業の間の移動と、授業の形態によって一緒に授業に同席してもらってサポートを受けているんですが、映像のほうで、最後のほうに書いたとおりに、学科とか学年だとかを超えてサポートをしてもらえるということが一番の魅力だなと感じていて、その魅力を感じながら過ごしています。そして、自分自身が新たなことを経験したり、新たな関係性を築くということができるので、サポートを受けることができて良いなと感じています。 ●写真 トークセッションをしている若林氏と3人の学生 ■サポートについて互いに思っていること 若林/ お三方とも、ありがとうございました。この後は、サポートについて互いに思っていること、感じていること、さらにお互いにやり取りをしながら、話し合いをしていきたいと思っています。  ここで、私の話になるんですけれども、先ほど長谷部さんがサポートの方法について、これでいいのかなとか、悩みを持っているというお話がありましたけれども、私も考えていることがあります。以前あったことなんですが、ビルの1階にコンビニがあり、視覚しょうがいのある人がお店に来たんですね。たまたますごく混んでいるところだったんですね、私はその並んでいる様子を見ました。けれども、視覚しょうがいの人は並んでいることがわからないので、どうしようと思って、私は声をかけようにも話しかけることができないので、書こうと思っても、書かれた文字が相手は見えないということですごく困ったんですね。どうしようかと思ったんですけれども、その視覚しょうがいのある方が慌てている様子が見えたので、相手の方の手を握って、こちらのほうですよというのを黙ったまま案内したことがあるんですね。後で思うと、もしかして相手の方はびっくりなさったんじゃないかなと思うんですね。何も言わずにいきなり手を持たれて歩かされたわけですから。本当にもっといい方法があったのかなというふうに悩んだことがありました。なので、やっぱりサポートするときには、これでよかったのかという悩みを持つというのは、みんなも同じだなと知って、私もちょっと安心した部分があります。  お互いにサポートを含めてここから皆さんでやり取りしていきたいと思います。まず、石田さん、どうでしょうか。何か質問とかあれば教えてください。 石田/ 若林さんと大石さん、サポート受けている方に質問をしたいと思います。サポートを受ける中で相手に伝えるということは重要だと思いますけれども、そのときに、特に意識していることだとか、気をつけていることだとかをお願いします。 若林/ 先ほども少し講演の中でお話ししたんですけれども、自分のしょうがいの内容をきちんと説明するということがとても大切だと考えています。聞こえる人の中には、私と会ったときには、声を大きくして話せば通じるんじゃないかと思う人がいるんですね。でも、本人は全く悪気はないんですけれども、大きな声で話されて、私にとってはこれが必要なのかなと相手が考えてくださっているわけですが、そういうときには、しょうがいを持っている私たちのほうから、自分のしょうがいはこういうしょうがいなんですということを、必要なサポートはこれなんですということをきちんと伝える必要があります。例えば、筆談でお願いしますということを自分から伝えていく必要があります。こうしてはっきり伝えるということが大切かなと考えています。 大石/ 私の場合は、大学では、サポートに入ってくれる人たちはみんな学生なので、やはり学生の人といい関係をつくることというのが大事だと思います。例えば、主にパソコンテイクを使っているんですけれども、パソコンテイクだと、やはり人によっては打つ速さが違ったりとか、打っている内容の質というか厚みというか、それも人によって違ってくるんですけれども、自分がやってほしいこととか、また、漏れている部分とか、そういうことをできるだけすぐ伝えるようにしています。授業が終わった後とかにも、すぐ伝えていくようにしています。自分がやってほしいことをはっきりと伝えるというふうに心がけているわけです。  また、手話通訳を使うこともありますけれども、そのときには、手話通訳者さんにはっきり伝わるように手話を大きく表現したり、口形をはっきりとつけるように気をつけています。 若林/ ありがとうございます。石田さん、いかがでしょうか。 石田/ ありがとうございます。僕自身もサポートを受ける人によってやっぱり慣れている方がいらしたり、慣れていない方がいらしたり、いろいろなので、どの人にとっても、なるべくわかりやすいように伝えるよう、言葉で伝えることに重点を置いているので、そんなところは共通しているのかなと思いました。 若林/ ありがとうございます。長谷部さんは、何か私たちのほうに質問はありますか。 長谷部/ 日ごろから結構、このサポートの方法で大丈夫かどうかということは、本人に直接、聞いたりはしているんですけれども、私が4年っていうのもあるし、サポートを受けている学生が後輩ということもあり、直接言いにくいとか、そういうこともあると思うんですけど、ちゃんとそれは伝えることができているのかというのを聞きたいです。サポートを受けていて、何かちょっとこうしてほしいなとか、もっとこうだったらいいのにということを、先輩とか後輩とか問わず、しっかり言えているのかどうか、ここで言いづらいかもしれないですけど、聞きたいです。 石田/ 正直なことを言うと、一番最初に会ったときというのは、やっぱり自分としては抑えてしまう、最低限のことをやってもらえれば、みたいなふうに思ってしまうところがあるんですけど、でも、講義だと14回サポートがあって、半分ぐらいたってくると、少し頼めるようになってきて、最後のほうになると、相手のほうから言ってくれたりもするので、時間をかければ自然にやれていくのかなと感じています。 若林/ いい話でしたね。大石さん、何かありますか。 大石/ 私の場合は、サポートしてくださる学生と私の関係というよりは、先生も入ってくる、関係の中に入っていらっしゃる場合があると思うんです。やっぱり先生と支援してくださる学生と私の3人の関係というところで大変になることは、何度かあったように思います。サポートしてくださる学生さんも、先生に対する接し方に困ってしまったりとか、先生と私との間に入ってくることになって、どうしたらいいかわからないという状況が出てきたり、私もその間でどうしたらいいのかオロオロしているみたいな、みんながどうしていいかわからない状況が起きてしまうことがあります。  そういうときには、支援室のスタッフに相談したり、また、先生とも直接メールで連絡を取り合って相談をしたり、また、学生にどうすればいいかを聞いてみたりすることも心がけています。 若林/ いい方法だと思います。支援する側、支援を受ける側、両方ともにも別の意見、別の支援が必要なことが時にある、ということですね。それぞれに自然にできているこの大学というのは、本当にすばらしいなと思いました。すばらしいですね。  次に大石さんから何か質問があれば教えてください。 大石/ 私は石田さんと長谷部さんに質問したいです。私の場合は、サポートを受けるときには、サポート学生のほうが私よりも存在感が強くなってしまうということがあります。例えばなんですけど、ディスカッションをしているときに、サポートしている学生が私の代わりに言ってしまうと、どうしてもまわりはサポートしている学生のほうにばかり目を向けてしまう、見てしまうという状況になるんですね。それで私のほうで言いにくくなってしまう、みたいな感じになることがあります。たまになんですが、そういうことがあります。石田さんの場合は、サポートを受けているときに、何か気になっていることとか、困っていることとかあれば教えてください。 石田/ 僕の場合、授業によってですが、自分でできない、手で作業をするという授業がありまして、そういうときに、授業時間等にも限りがあるので、できないことはしょうがないのかなというのがあって、そんな時は隣にいる人の様子を見ていたりするんですけど、できないことはできないこととして、できること、例えば感想を書くとかそういうところで、なるべくできないことを補うという形にして、存在感というか、まわりの学生に加わっているというようにしたことがありました。でも基本的には大きな心配事とか悩みというのはないです。 大石/ ありがとうございます。2つ目の質問をしていいでしょうか。長谷部さんにお聞きしたいのは、パソコンテイクかノートテイクをしてくださる場合、基本的にはペアで、二人で組んでやってくださると思うんですけれども、そういうときに、サポート学生同士で困っていることというか、気になることがあれば聞きたいです。 長谷部/ さまざまなサポートをやっていますが、ペアではほとんどうまくいっているんですけど、前に一度だけペアで揉めたというか、少し言い争った経験はあります。というのも、そのサポートのやり方について考えが少しずれてしまって、お互い引かない、みたいなことがあって。二人とも、そのサポートを受ける学生のことを考えての発言なので、サポートをより良くしていくにはどうしたらいいのかというところでの議論なので、揉め事と言ったらちょっとおかしいかもしれないですけど。それでしばらくちょっとけんかみたいになりました。でも、結果的には話をしたことで、お互いわかり合えた部分もあって、いい関係になれたということがありました。 若林/ ありがとうございます。まだ時間は大丈夫ですね。ほかに何か聞きたいこととか、ありますか。 大石/ 先ほどの長谷部さんのお話で思いついたことがあるんですけれども、若林さんの場合は、手話通訳士さんは決まった方がいらっしゃるということなんでしょうか。いつも同じ方なんですか。それとも違う、いろんな通訳士さんがいらっしゃるという形なんですか。 若林/ お答えします。いつも一緒に仕事をしているのは、専従の通訳士1人です。けれども、すべてをその人にお願いすることは難しいので、8時間ずっと1人で通訳してもらうということはできませんから、そういうときには別のところにも何人かの通訳士にもお願いすることがあります。 大石/ それぞれの通訳者というのは、何か通訳方法が違ったりすることなどで、困ったりすることはありますか。 若林/ ええ、通訳者さんはそれぞれ個性がありますね。手話も微妙に違ってくるところはあります。でも、お互いに思っていることを言い合うようにしています。通訳者さんが、これは難しいというところがあるときには教えてもらうとか。そんな時に時々通訳者さんが落ち込んでしまうことがあって、うまく言わなきゃいけないと思うときもあるんですけれども。そんな時は、何か「通訳が難しかったですか」とか、「どうしたらいいですかね」という形で、一緒に考えながら、専従の通訳者さんと相談してもらったりもしながら、通訳者同士で情報交換してもらうなどして、工夫するようにしています。  ほかにはないでしょうか。大丈夫ですか。そろそろ時間になりましたので、会場の皆さんのほうから、私たちに対して何か質問がありましたら、言っていただければと思います。 ■質問:疎外感を感じる時 参加者A(本学学生)/ 立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科4年Aと申します。ちょっと今日は訳あってスーツを着ているんですが、学生なので、よろしくお願いいたします。  貴重なお話をありがとうございました。お聞きしたいことがあったので、質問させていただければと思います。特に、若林さんと大石さんと石田さんに質問したいと思います。今日若林さんのお話の中にもありましたけど、聞こえなくて不便ではあるとは思うんですけど、それ以上に、聞こえないこと、例えば、聞こえないことによってコミュニケーションがとれなくて疎外感を感じてしまうとか、寂しさみたいな、そっちのほうがある意味、しょうがいなのかなと聞いていて感じました。石田さんも含めてなんですけど、まわりの中で少し疎外感を感じてしまって、そこが辛いとか、そういうことがあるのかなと思ったんですが、その辺のところをちょっと聞かせていただければと思います。お願いいたします。 ●写真 マイクを持ち質問をしている参加者A 若林/ 石田さん、いかがでしょうか。 石田/ 疎外感を感じることは、やっぱりあると言えばあるんですけど、なるべくしょうがいだからしょうがないというふうに結論づけないようにしたいな、というのは自分自身で思っています。できるだけまわりのサポートを借りながら、すべてを解決する、みたいなことはできないんですけど、ちょっとでもその疎外感を減らしたいと思い、なるべく積極的にいろいろなことにかかわるようにはしています。 大石/ 私は大学に入るまでずっとろう学校で育ってきました。手話があるという環境が当たり前だったんです。みんなが何をしゃべっているのか見ればわかるのが当たり前で育ってきました。なので、大学に入って初めて、まわりが何を話しているのかわからないという状況に置かれたわけです。それは本当に私にとって初めての経験で、苦しかったかといいますと、授業のときではなくて、授業の前の休み時間とか、ゼミとかの少人数グループで、特に休み時間でみんなが楽しそうにお話ししているじゃないですか。そのときに、何を話しているのかわからなかった。それでグループに入れないというのはありましたね。  また、しょうがい学生支援室の中でも、正直言っちゃうと、ろうっていうのは私だけなんですね。ろうの学生は私だけなんです。ほかのしょうがいの方は車いすとか、視覚しょうがいという方が多くて、みんな声でお話をしていますよね。本当は私も話に入りたいんだけれども、話している内容がわからないので、何か簡単な挨拶だけで終わってしまうとか、そういうこともよくあります。  だからこそ、一人一人に、1対1のつながりとか、会話を増やせるように努力しています。積極的に自分から声をかけていったりとか、筆談をしたりとか、そういう努力を私のほうからもするようにしています。 若林/ ありがとうございます。私は大石さんとパターンは逆なんですね。私は聞こえる世界から、大学に入って手話を知って、寂しさから解放されたというか、そういう流れがありました。そこはちょっと大石さんとは違うかもしれないんですけれども、思っていることは、ほとんど大石さんが言ってくださったことですね。私もまわりのみんなが話しているときに、全部を教えてくれるわけではないんですよね。わからない時もあります。ただ黙って微笑んでいるだけ、微笑みをつくっているだけになり寂しいこともあります。  これまでも何回か、講演をした際など、聞こえる人と一緒に飲み会に行くことがあったんですが、今も緊張するんです。隣の人と筆談はできるけれども、飲み会が盛り上がってくると、筆談がなくなってしまうんですね。悪気はないと思うんですけれども、やはり取り残されているように感じるときがあります。そういうときには寂しさがあります。それは今でも感じることがあります。お答えになったでしょうか。 参加者A(本学学生)/ 大丈夫です。ありがとうございます。 若林/ ありがとうございます。ほかにどなたか質問のある方いらっしゃいますか。ぜひ聞いてください。 ■質問:職業におけるサポートについて 一般参加者B/ 今日はお話をどうもありがとうございました。東京都立中央ろう学校で教員をやっておりますBという者です。すみません、若林さんにご質問なんですけど、ろう学校の生徒からよく、例えば、キャビンアテンダントとか、例えば、船関係の仕事とか、今現在は、聞こえなくて危ないから難しいといわれる仕事に就きたいんだけどという相談を受けることがあるんです。そんなときに、いつもいてくれる通訳士さんがいてくれたら、どんなにいいかねと、もし毎日一緒に仕事をしてくれる通訳士さんさえいてくれれば、何の問題もないのにね、というふうに話すんですね。今のところどうすればそういう職業につけるかがわからないということがあるんですが、若林さんの場合は、通訳士さんというのは、自動的につくというか、どういう形で通訳士さんがつく制度になっているんでしょうか。教えてください。 若林/ ありがとうございます。法律事務所で専従の通訳者さんも採用してもらい、一緒に仕事をしています。 また、私が子どものときになりたかった職業というのは、新幹線の運転手なんです。けれども、親から、「あなたはろうだから無理」と言われて諦めたということがありました。しかしながら、今はろうのバスの運転手さんが2人います。1人は京都、もう1人は埼玉にいます。また、ろうの医師も2人もいます。ろうの薬剤師もいまして、映像に出ていたかもしれないですけれども、早瀬久美さんという方が、私の同期なんですけれども、薬剤師をやっています。ほかに、仙台にもろうの薬剤師がいます。手話通訳と一緒に仕事をしていると聞いています。  弁護士も、ろう・難聴合わせると日本に9人おります。ほかにもろうの会計士さんもいます。また、税理士さんもいます。社会福祉士もいます。精神保健福祉士もいます。また、ろう学校の先生もたくさんいますね。そのように、ろうの専門家が自分のスキルを生かして仕事ができる場所というのが増えています。会社の中でも、サポートを入れて、本来持っている力を生かせている人たちが増えていると思います。このように、手話通訳士というもう1人の専門家がつくような形が増えていってくれればと思います。そうすれば、飛行機のキャビンアテンダントもできますね。何でもできるようになると思います。そうなるといいですね。ありがとうございました。 一般参加者B/ ありがとうございました。 若林/ 時間のほうは大丈夫でしょうか。 横田(司会)/ 質問していただいた皆様、ありがとうございました。ほかにご質問のある方もいらっしゃると思うのですが、時間の都合もありますので、残念ですが、この辺で終わりにしたいと思います。ご質問していただいた皆様、ありがとうございました。  最後に、閉会の挨拶を、しょうがい学生支援室長、法学部政治学科の小川先生にお願いしたいと思います。小川先生、よろしくお願いいたします。 ■閉会の挨拶 小川/ 立教大学しょうがい学生支援室長の小川です。本日はこんなにたくさんの方に、2017年度公開講演会においでいただきまして、ありがとうございました。本日、講師をお務めいただいた若林亮先生は大変明るく楽しい方で、私が最初に、自分は雨男なんですが、今日は晴れてよかったですと言いましたら、「私も雨男です」と答えてくださって、思わず笑ってしまいました。先生のお話から元気をもらった方、たくさんおられるのではないかと思います。  若林先生は、同じくしょうがいがあり、弁護士になられた田門弁護士という先輩から勇気を得て、法科大学院、それから司法試験に挑戦され、合格されました。もっと年長には、日本で初めて聴覚しょうがい者で弁護士になられた松本弁護士という方がおられると聞いています。その方の時代には、聴覚しょうがい者で無免許運転をして起訴された事件があったそうです。なぜかというと、それは当時、聴覚しょうがい者が運転免許を持つことが禁じられていた、そういう法律の時代だったそうです。皆さんはどれぐらい免許をお持ちですか。多分、たくさんの方がお持ちだと思います。   私は法学部の教員で、権利、人権について学んだり教えたりしています。しかし、教科書の上では書かれているのに、権利が、実際には手が届かない。見えないバリアがあることがあります。  これについて、ユダヤ人で女性の哲学者のハンナ・アレントという人が、「権利を持つための権利」というものが大事だと語りました。権利を持つための権利に気づいて実現するためには、もちろん1人で努力され、また苦しまれ、孤独に耐えるということも大変なことだと思いますけれども、きょうの話にありましたように、つながりということも大きな力になるんだと教えられました。 ●写真 マイクを持ち閉会の挨拶をする小川氏  若林先生の法科大学院時代のお仲間のことだとか、現在のお仕事のパートナーの手話通訳士の方とかですね。そして、若林先生が現在、奉職されている法テラスというものも、弁護士の方だけではなく、民生委員とか行政職員の方も含めて、生活が苦しかったりして、日ごろ司法の助けを得られないような方に、本当は権利があるのだということを伝えてサポートされているんですね。そういうつながりの仕組みだと思います。それが、若林先生がおっしゃっていた、コミュニケーションと信頼と責任のある社会をつくることにつながっていくのではないかと思わされました。  本日はまた、通訳士のお2人に、大変長時間、通訳を務めていただいて、ありがたく思っております。最後になりますけれども、本日は登壇してくれた3人の立教大学の学生さんたち。それから、受付から字幕の入力まで担当してくださったサポートスタッフの学生さんたち。大石さんのように、ほかのしょうがいのある学生のサポートをされているしょうがい学生もおります。こういうことは、立教大学は、あまり宣伝しておりませんけれども、大事な財産であると思っています。このようなつながりが、今日ご来場の皆様にも広がっていくことを願い、信じて、私の御礼の挨拶とかえさせていただきます。  最後に、若林先生、また登壇者諸君に大きな拍手をもって本日の会を終わらせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。 横田(司会)/ 小川先生、どうもありがとうございました。  今回の講演は「互いに支え合う」がテーマでしたが、共生社会が大きなキーワードとなっている今日、とても大事なテーマであったと感じました。2020年のパラリンピックに向けても生かせることがたくさんあったと思います。また、コミュニケーションの重要性や、自分のしょうがいをはっきり伝えることの重要性を改めて知ることができました。若林さんと通訳士の関係は、健常者としょうがい者の相互が築くべき関係であったと思います。  最後に、講演してくださった若林さんに大きな拍手をお願いいたします。  そして、事務連絡が1つございます。アンケート記入のお願いです。講演会が始まる前に資料をお配りしたと思うのですが、その中にアンケートが入っていますので、アンケートの記入をお願いいたします。今日の講演を聴いて感じたこと、意見など、何でもいいので書いていただければと思います。記入が終わりましたら、会場を出たところにアンケート回収箱がございますので、そちらに入れてください。アンケート用紙がない方はいらっしゃいませんか。もしいらっしゃいましたら、お近くの学生スタッフに声をかけてください。  これをもちまして、講演会を終了したいと思います。本日はどうもありがとうございました。皆様、気をつけてお帰りください。 ●写真 会場受付の学生スタッフ5名が来場者2名の受付対応をしている。 ●写真 50名ほどの講演者・学生スタッフ・職員が集まっている。