『娘より母へ』

文学科 文芸・思想専修 溝辺 夏子 さん

 「母が死んで、とても悲しい」。この想いが、エッセイ『娘より母へ』の制作の出発点でした。大学4年間の集大成という意味では、もともと研究を行っていた少女小説をテーマにするべきでした。しかし、母が亡くなった直後に一つの作品を残せる機会を前にしたら、母への想いや自分の不器用さが残る日常を綴っていくほうが、今の自分の本音を導き出せるのではないかと思ったのです。結果的にエッセイにすることで、自分では思いもしない形で自分の考えや想いを表現できたので、自ら視野を狭めないことも大切だと感じています。
 執筆にあたっては、エッセイという作品の性質上、どこまで事実や記憶に脚色を加えるべきか悩みました。最終的に作品そのものの面白さを優先することを選んだため、俯瞰的な視点で作品と一定の距離を置いて書くことにも苦心しました。実際に書き終わってみて、出発点となった「悲しい」以外の言葉で母の死と向き合えたことで、「母とは二度と会えないけれど、それでも私や他の家族は生きていかなければならない」という覚悟を少しずつ自分の中で形作ることができました。また、何年後かに母が亡くなった時のことをぼんやりと思い返す日が来るでしょう。それでもきっと、時間の重みに押しつぶされて思い出せない部分が出てくると思います。そのようなときに、私はこの作品を手に取るのだと確信しています。