立教大学文学部

藤井淑禎教授 文学科:日本文学専修

自らを知り、他者を知る

立教大学では、他大学に先駆けて、国文学科ではなく「日本文学科」という名前を学科名に使っていました。国文学としてそこだけをたこつぼ的に見るのではなく、他との比較や相対化の中で、日本文学を位置づけていく。世界文学の中の日本文学、ということですね。そういう姿勢が、50年ほどの歴史を通してずっとあります。

文学作品の研究では、ただそれを分析するだけではなく、「作品という相手を理解する」ということが必要になります。その上で、自分がそれをどう読んだかを表現する。いわば、文学作品は相互理解のツールのような側面があり、いまは、特にそういうことの重要性が増していると思います。文学作品を扱うところは多少なりともそうだと思いますが、日本文学専修は、やはり自分たちのネイティブの言語で書かれたものを読んでいるわけですから、他の外国文学とは違う形で、作品を通じた他者とのコミュニケーションのようなことが実現できると思います。

また、文学は歴史と一体ですから、日文専修では「日本の歴史を知る」という面もとても大きいんです。歴史を知ることで、学ぶ人はその末端にいる自分のアイデンティティを確認する。歴史を勉強すれば、他の国や他の文化との比較に当然進みますから、そういう意味でも、他者や他文化を知ることにつながります。結局、自分を知るためには他を知らないといけない。さきほどの、作品を通じてのコミュニケーションというところともリンクします。単に頭だけでテキストを分析するのでなく、そこに自分自身を表現したり、あるいは自分がその歴史の末端にいる自分であるということを自覚したりと、もう少し広い観点で日本文学というものを学ぶ。日本文学を生きるというのかな。「学ぶから生きるへ」。学生たちも、そういう形での関わりを望んでいるようですね。そんなことを感じます。

作品が書かれた時代の読み方を探る

私は近現代文学文化が専門です。当初は明治文学をやっていたのですが、その後、戦後文学にまで手を広げて、いまは時代との関連や文化状況などを調べることで、作品の読みを深めていく、そんなことを得意分野にしています。これは同時代研究というんですが、作品が書かれた当時の読者にその作品はどう読まれていたのか、それと、現在の我々の読みを突き合わせて、作品の読みを重層的に深めていく。扱う時代としては、1つは私の専門分野である高度成長期、昭和30年代ですね。松本清張などは、特に時代の影を色濃く遺しています。ところが、いまの常識で読んでしまうと、わからないことがいっぱいなわけです。特に男女のこととか、親子のこととか、お金のこと。昔といまとではすっかり違っていることが多々あります。そうすると、やはり当時のことを知らないと、小説も読めないとなる。

私がこうした読み方で研究をしている理由は、やはり文学研究が、もともとあった作家中心から、作品中心の研究へと向かう過程で“いまの観点から読む”という方向に暴走した、そこに行きすぎたことへの反省がたぶんあるんだろうと思います。やはり、いまどう読めるかだけではなく、当時どう読めていたんだろうということを、もう一方で押えないと、本来の小説の深みはまったくわからなくなってしまいます。

ゼミの学生たちは、意外にどの時代でもおもしろがりますよ。明治の前近代的な農村の話でも、戦後の話でも。そもそも、歴史を知るということが文学研究の基本にありますから、どの時代を知ることも興味深いようです。

可能性の大海原に漕ぎ出そう

文学部や日本文学科の原点は、作品を読むということ。ですが、作品の読み方については、高校までだとできることとできないことがあります。高校までは、客観的な答えが要るという部分がどうしてもありますよね。ところが、作品の読みというのは、実際には答えが多様です。そのあたりの発想の転換というか、そこを知ってもらうことが、学生にとっては第一歩だろうと思います。文学は読者にとっていろんな意味がある。かと言って、自分勝手で説得力のない読みではまずい。答えは無数にあるけれど、やはり人を説得できる根拠や、学問的な論拠、そういうのも一方で必要なんだと。それが、感想に止まらない学問研究の目指すものである。そんなことを、1年生には教えるようにしています。

日文を志す学生には、やはりいろんなことに関心を持ってほしいですね。日本だけではなく、外国のこと。いまのことだけではなく、過去のこと、歴史のこと。そして自分だけではなく、他者のこと。そういう中で、作品や文学に対する理解が深まるからです。

学生たちは、最初は自分の知らない世界に対する意識は少ないです。でも、少しでも「そうじゃないんだよ」という世界を垣間見せてあげると、若い人は可能性はたくさん持っていますから、ガラッと変ります。高校までの方向づけとは違う、それこそ大海原に出て行くみたいなところがあるわけですから、そのあたりの考え方の転換をしてほしいし、ほとんどの人はそれに十分ついていける。ですから、その道筋をつけてあげるのが、我々にとってはとても大事なことだと思っています。


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