(旧約聖書 コヘレトの言葉 1章9節)
立教大学チャプレン 金 大原(キム デウォン)
温故知新
「太陽の下に新しいものは何ひとつない」という聖書の言葉は、虚無主義や冷笑主義としてはかない人生を言っているのではない。むしろ始終新しいことだけを追求し、先祖の経験を無視する世代に向かって、過去を振り返ることで現在を知ることができ、現在から推して見れば未来が分かるということを教えるための言葉である。すなわち、キリスト教の聖書は過去の経験の重要性を語っている。
古代中国の思想家である孔子の教えをまとめた『論語 為政篇』には、「温故而知新 可以為師矣」という言葉がある。「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知れば、以て師為るべし」である。まさにここから「温故知新」という四字熟語ができた。これは、「前に学んだことや今までの経験、古い言葉をもう一度よく調べたり研究して、そこから新しい知識や見解を得る」という意味である。東洋の古典でも過去の大切さを強調しているのだ。
孔子は特に「温故」に重点を置いている。昔のことを学んでいるだけで深く考えることもなく、そこから新しいことを見つけることができなければ、陳腐なものになりやすい。逆に新しいことにだけ執着すると軽薄なものになりやすい。昔のことを学ぶと同時に、たゆまない省察を通してそこから新しいことを導きだすことが重要である。言い換えれば、新しいことを学んでいくよりは、今までの学びや経験を省察することによって得られる知識と知恵の深さが必要だということであろう。昔のことを学び、取り出すべきことは取り出し、加えることは加えて新しい未来を開いていくこと、これこそまさに温故知新の生き方だと言える。
忘年、つまり一年間の苦しい記憶を忘れたいかもしれないが、大変なことを乗り越えて新しい年を迎えた私たちに、より良い未来を開いていくための糸口として一番ふさわしい言葉、それがまさに「温故知新」なのではないか。
2012年1月23日