卒業生の皆さんへ

立教大学総長 吉岡知哉

2011年3月23日
立教大学総長 吉岡 知哉

卒業生の皆さん
ご卒業おめでとうございます。

この春、立教大学は、3,905名に学士、362名に修士、19名に博士、52名に法務博士の学位記、140名にセカンドステージ修了証書を授与いたします。
皆さんの出立を心からお祝いいたします。

今年度の卒業式、学位授与式は、3月24日、25日にタッカーホールで行われる予定でした。
しかし、3月11日に発生した東日本大震災と津波は甚大な被害をもたらし、東京都内においても、電力不足による停電とそれに伴う交通機関の混乱が生じています。余震もいまだ続いており、東京電力福島第一原子力発電所の事故は現在もなお予断を許さない状態です。

2010年度卒業式
2010年度立教大学卒業生・修了生を送る式

このような状況のもとで、危険を回避するとともに、現在被害に 苦しんでいる被災地への負荷を最小限にするためには、多数の人間が一カ所に集うのを、できる限り避けることが必要であると考え、私たちは式典の挙行を断念しました。

言うまでもなく、卒業式は、学生生活を締めくくる大切な式典で あり、今回の決断は、私たち教職員にとっても苦渋に満ちたものです。 本日、卒業生が一同に会する例年の卒業式に代えて、「卒業生・修了生を送る式」を行うことにいたしました。
どうかご理解ください。

多くの人々の生命と生活とを奪った今回の大震災は、巨大な自然災害であると同時に、文字通り人間社会の根本を揺るがすものでした。  
昨年4月1日の総長就任式において、私は、人類が現在、20世紀とは大きく異なる環境に置かれていると述べ、現代の諸問題の特徴は、それらが人間と人間社会のあり方に深く関係しており、市民の日常生活にも密接に関わっている点にあると申しました。
しかし、その時点においてはもちろんのこと、ほんの2週間前でさえ、私は、私たちが現在のような状態に置かれることになろうとは、まったく想像していませんでした。

大学という組織は、900年以上前のその成立の時以来、文明の発展に大きな役割を果たしてきました。とりわけ19世紀以降の近代社会の急速な発展は、大学における研究と教育抜きには考えることができません。
私たちが生きているこの現代世界の形成に深く関与してきた大学は、現代の諸問題に真摯に向き合い、培ってきた叡智を注いで、よいりよい未来を築き責務を負っているのです。立教大学を代表するものとして、この使命を、深く心に刻みたいと思います。

皆さんの旅立ちは、予想を超えた困難の中で行われることになりました。しかし、忘れないでください。皆さんたち青年の存在自体が、人間社会の未来への希望を生み出しているのです。世界が皆さんに希望を託していることに、どうか自覚的であってください。

もちろんこれから新しい一歩を踏み出す卒業生の皆さんの気持ちの中には、少なからぬ不安があるに違いありません。まして、皆さんが出て行こうとする社会は、大震災からわずか一月も経っておらず、人類が今まで経験したことのない問題をかかえているのです。不安があるのは当然だと言わなければなりません。

なによりも大切なことは、不安をもつことそれ自体を不安に思ってはならない、恐れを感じることそれ自体を恐れてはならない、ということです。
不安を持つことそれ自体に不安を覚えると、人は誰かに頼ったり、何かに依存しようとします。
あるいは、恐れを感じている自分を否定し、恐れなど感じることのない「本当の自分」を探そうという、「自分探し」の迷路に踏み込むことになります。

必要なことは、不安や恐れの原因を見定める冷静な目をもつことです。そのためにはまず、不安や恐れを抱いている自分を素直に受 け入れなければなりません。
同時に、そのことを通じて、私たちは、ほかの人たちの不安や恐れを我が身のこととして受け止めることができるのだと思います。

立教大学で学んだ皆さんは、既に、社会に向けて最初の一歩を歩みだすのに十分な基礎力を身につけています。
この2週間の危機は、改めて、柔軟な知性がいかに重要であるかを私たちに教えています。
立教大学が創立当初から育んできたリベラルアーツ教育とは、まさに、この柔軟な知性を育てる教育にほかなりません。 大学のなかで学んでいるときには必ずしも自覚していなくても、リベラルアーツの伝統は、皆さんの思考法、ふるまいかたのなかに刷り込まれています。
皆さんが、立教大学での学びを基礎に、これからも自らの知性 を鍛え続けていくことを期待しています。

2011年3月、通常の卒業式が行われなかったことは、私たちの記憶と立教大学の歴史に、はっきりと刻まれることになるでしょう。

改めて申し上げます。
皆さんの一人ひとりが、世界の希望です。
そのことを忘れず、「自由の学府」で身につけた自信と誇りをもって、社会のために力を尽くしてください。

ご卒業、おめでとうございます。

(2011年3月23日 卒業生・修了生を送る式より)
※「卒業生・修了生を送る式」の模様を動画配信しています。詳細はこちらをご覧ください。

理念

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